障害とアート研究会 第5回:2008年12月17日(水)

「とざい、とーざい、ちんどんチャンス!ができるまで」

話題提供者:槙 邦彦(コマイナーズ・コレクティブ)
会場:アートエリアB1(大阪市)
主催:大阪大学コミュニケーションデザイン・センター、財団法人たんぽぽの家
共催:アートミーツケア学会、エイブル・アート・ジャパン


話題提供者は、コマイナーズ・コレクティブの槇邦彦さん。劇団制作を経て介護の仕事につくかたわら、バンド「コマイナーズ」として活動、またYMCA学院高校非常勤講師もしています。
今回は「とざい、とーざい、ちんどんチャンス!ができるまで」と題し、槇さんがスタッフとして関わっていた、障害者とそのヘルパーとアーティスト達による“こえ”と“ことば”の舞台活動「ほうきぼしブラザーズ」のはじまりから解散への経緯、そこでの経験を踏まえスタートした「ちんどんチャンス」のこれまでと現在の問題点について、映像を交えお話いただきました。

まずは、「ほうきぼしブラザーズ」について。きっかけ、ワークショップ、スタイルの成立、成果、そして好評を博していたものの1年余りで解散に至った経緯のお話。
続いて、「ほうきぼし」でつかんだ手ごたえや運営体制を継続させる仕組みとしてひらめいた「ちんどんチャンス!」について。新しくプロジェクトを始めるにあたって考えたこと、デビューに向けて、デビュー企画「大阪府庁内練り歩き」、そして現状(現在ゆるく停滞中)という流れで話はすすみました。

槇さんは、ヘルパーとして、障害のある人のカラオケ大会に同行したことが、これらの活動をスタートさせるきっかけになったそうです。障害のある人の歌う姿、自己表現、切実さ、そしておかしさ。笑うことで価値観がシャッフルされ、彼らの声がすっと入ってくるようになったという自身の経験から、「ありのままで笑える音楽表現」と「障害者の声と言葉による詩の朗読会」(COCOROOMの事業)を組み合わせるかたちでプロジェクトを企画、エイブルアート・オンステージ活動支援プログラム に応募、第2期活動支援先に採択されたところから「ほうきぼしブラザーズ」(以下、ほうきぼし)ははじまりました。

ほうきぼしのワークショップ(WS)の約束は、お互いの言葉を途中でさえぎらないこと。よかったと思うところを見つけ、どんどんほめていくこと。ここでは、障害のある参加メンバーはそのままで、スタッフがその魅力を発見し、ひきだすことに主眼がおかれました。
具体的な内容としては、あくび、この1週間で楽しかったことなどを発表、発声練習、みんなで歌う、お茶を飲んでおしゃべり、というもの。週一回のペースでWSを重ね、三ヶ月後には自然と演奏スタイルができたといいます。しかし、その「ありのまま」をいかす演奏スタイルは、公演が決まると、急変してしまったそうです。練習してうまくなろうとする、健常者を目指してしまう。結果として、当初伝えたかった「ありのまま」の魅力から離れてしまうことになるのではないかという思いが槇さんにはあったようです。
ほうきぼしは約一年活動を続け、東京での公演を区切りに、解散します。その理由としては、障害が重くなり、活動が難しくなったメンバーがいたことや、メンバーのやる気や足並みがそろわないことなどがあげられていました。

そして「ちんどんチャンス!」について。新プロジェクトをはじめるにあたり、条件となったのは「飛び入り参加OKの敷居の低さ」「お金がもらえて、就労につながる」ことなど。その結果「ちんどん屋さん」になったそうです。このWSでは、実際にちんどん屋さんに来てもらい口上を教えてもらう、メークを教えてもらうなど、いわば即戦力をつけることが重要視されました。

そして迎えたデビュー企画「大阪府庁練り歩き」ではメンバーに加え、様々な人が参加、人数は当初想定していた2倍ほどに。またその後、仕事の依頼が来たり、新聞、テレビなどで報道されたり、注目されることが多くなったそうです。反面、美談として紹介され、結果として頑張ってしまう。余裕がなくなってしまう。「ありのまま」の姿からは遠ざかっているようにも感じられるとのことでした。

前半の発表が終わり、後半は参加者皆でディスカッションを行いました。

「障害のある人たちは何をしたくて参加しているのか」という質問に対しては「みんなで集まりたかった、喜ばれたかったということが強いのではないか」とのこと。また介助者がスタッフとしてプロジェクトに参加することの利点、問題点などについては、槇さん自身は「はじめは介助者として参加していたが、だんだん、別に時間をつくって参加するようになった。でも日常的に時間をともにしていたことはアドバンテージになった」との答え。一緒に過ごす時間の重要性を実感されていることは、ちんどんチャンスの具体的なプログラムを中心としたWSを経て「本当に必要だったのは、ほうきぼしのWSのような、ゆっくりとした時間。お菓子を食べて、だらだらとおしゃべりをするような時間だったのではないか」と感じているという言葉からも伝わってきました。

ほうきぼしは、どもってしまい、なかなか詩を朗読できないメンバーの、そのありのままの姿をみせる。それが、訴えかけるものがある。そのことを踏まえ、参加者から、アートについては様々な考え方がある、ということが確認されたうえで「アートというときに大事な点は、そこにいる人が何かを得ることなのではないか」という意見がだされました。それは「弱さの力」というキーワードにつながり、みんながついつい手を出したくなる、そういうよさがあるのではないかという指摘がされました。

実際、ほうきぼしの公演の映像をみていたとき、なかなか発語できないメンバーに迫る画面に、参加者が身をのりだし、傾けるようにしていたのが印象的でした。意見交換のなかででてきた、槇さんの「彼ら(ほうきぼしのメンバー)が30年なりの人生で身につけてきた言葉、身体は、ある意味で完璧なのかもしれない」という言葉は、そのことを表しているようにも感じます。

ほかにも、活動を続けるということの困難さ、参加することの困難さ、本人の自覚、自己決定などといったことについて意見が出されました。時間の都合もあり、ひとつの論点に絞り、ほり下げることはしませんでしたが、「ほうきぼし」と「ちんどんチャンス!」について色々な角度から考えることができたように思います。

今回も、前回と同じくアートエリアB1での開催、18名ほどの方が参加されました。初めて参加される方も多かったのですが、積極的に発言してくださいました。この研究会が、さまざま方の意見が交差する場になればいいなと思っています。

井尻貴子(「障害とアート研究会」コーディネーター、大阪大学大学院文学研究科 臨床哲学 博士前期課程)


COCOROOM
COCOROOMは、大阪で活動しているNPO法人です。


エイブルアート・オンステージ
エイブルアート・オンステージは、2004年より、明治安田生命とエイブル・アート・ジャパンが共同で行っている「舞台芸術と社会の未来に向かう」プロジェクトです。活動支援プログラム、コラボ・シアター・フェスティバル、飛び石プロジェクトの3つのプログラムからなる。また、活動支援プログラムは「障害のある人が参加する、さまざまな舞台芸術の取り組みに対して、上限150万円の支援金を提供するプログラム」であり、支援対象者は約1年間の支援期間中に、各地でグループを立ち上げ、参加者の募集、ワークショップを実施、地元での公演を行う。