写真右:第1回「美術と手話を考える会議」の会議風景 聴覚障害者、美術関係者を中心に定員を超える40名以上の方から申し込みがあった。
「手話でも美術を語り合い、感動を共有できる環境をつくりたい」。聴覚障害者のそんな考えから、美術鑑賞プログラム開発と美術用語や感動を伝える新しい手話創作の取り組みをNPO法人エイブル・アート・ジャパン(以下、AAJ)がはじめた。
AAJでは、これまでも、美術や美術館がすべての人にとってより身近で開かれたものとなるよう、さまざまな活動を行ってきた。「美術館・博物館のバリアフリー対応アンケート調査」や、公立美術館の障害者特別鑑賞会コーディネート、視覚に障害のある人との言葉による美術鑑賞活動などである。「美術と手話を考える会議」がスタートしたのは、2011年2月。聴覚障害の有無にかかわらずこのテーマに関心のある人たちとの緩やかな集まりを持ってきた。
聞こえないことは美術鑑賞において特に不便なことはないのではないかと思われがちだが、実際にはさまざまな不便や不合理なことがあるという。しかし、そういった不便さに対応しようと手話ツアーなどを開催している美術館はごく一部にすぎず、「聴覚障害と美術鑑賞」というテーマについて関心のある人が出会い、そういった不便さや課題を共有し、語り合う場もない。そこで、会議ではまずは聴覚障害のある人、美術館関係者、手話に関わる人が集い、問題を共有して課題を明らかにし、聴覚障害のある人の美術鑑賞や美術館利用の現状や理想の姿などをみんなで検討していくことを目的としてきた。
そのなかでみえてきた、「美術の専門用語を表す手話が少なく聴覚障害者が理解しづらい」「美術用語をまとめた手話用語集もない」という課題は、新たな事業へと発展した。2012年から「ファイザープログラム?心とからだのヘルスケアに関する市民活動・市民研究支援」の助成を受け、「ろう者とつくる、美術鑑賞プログラム開発事業」「美術用語の手話化事業」を柱に、聴覚障害者向けの鑑賞プログラム作成の事業をすすめていくことになったのだ。
「美術と手話を考える会議」の中心メンバー、2008年から横浜市民ギャラリーあざみ野(神奈川)を活動拠点に活動している「みんなの美術館プロジェクト」のメンバーに、世田谷美術館(東京)の学芸員や手話通訳者などの専門家が加わり、①聴覚障害者の立場から美術鑑賞の課題を抽出し、鑑賞プランを作成、ウェブ上で公開すること、②美術用語の手話化のために、美術用語約100語を抽出し、手話にすることを目標としている。
新しい手話がうまれることで、新たな「美しさ」を表現し、伝え、共有することができる。それは、聴覚障害者にとって美術にアクセスしやすい環境を提供するだけでなく、わたしたちに美術館や美術のありかたに対する気づきをもたらすに違いない。
写真左:第3回「美術と手話を考える会議」鑑賞ツアーの様子 東京国立博物館の全面的な協力を得て、通常開催している「本館ハイライトツアー」に手話通訳をつけて開催した。
写真右:第3回「美術と手話を考える会議」ディスカッションの様子 東京国立博物館での鑑賞ツアーに続いて、同館の会議室を借りてディスカッションを行った。
(財団法人たんぽぽの家/井尻貴子)
*「美術と手話を考える会議」は、「美術」「美術館」「手話」「聴覚障害者」というキーワードに関心を持たれる方であればどなたでもご参加いただけます。
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「手話でも美術を語り合い、感動を共有できる環境をつくりたい」。聴覚障害者のそんな考えから、美術鑑賞プログラム開発と美術用語や感動を伝える新しい手話創作の取り組みがはじまっています。