医療や福祉、さらには社会的な課題をかかえる地域コミュニティなどで、アートの力が着目されています。それらは、人と人をつなぐ、人と地域をつなぐ、そして人を癒し、元気づける、芸術文化の可能性をいかす実験的な取り組みです。
たんぽぽの家では、文化庁の助成を受け、今年度こういったアートの社会的役割に注目し、東京、奈良、福岡の3カ所で「臨床するアート」セッションを行っています。
東京での連続セッションがスタート
東京では、6回のわたり、毎回一人ずつ先進的な取り組みを行う方をお招きし、レクチャーとディスカッションを行う連続セッションが、1月よりスタートしました。すべての回のコーディネーターは、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所特別研究講師の坂倉杏介さんです。
第1回のテーマは、「地域にひらかれた病院を創出する――アートとデザインの力」。講師は病院や発達障害支援センター等へのアートの導入に取り組む、「やさしい美術プロジェクト」ディレクターであり、名古屋造形大学の教員の高橋伸行さんでした。
最初に1時間、高橋さんより、やさしい美術プロジェクトについてお話しいただきました。
やさしい美術プロジェクトは、2002年に「病気にある人の痛みや苦しみを受けてアートで何かできないか、アートやデザインの力をもって病院を地域に開かれた場にしていきたい」との思いからスタートし、現在高橋さんの指導のもと、名古屋造形大学の学生が中心となって、美術やデザインの専門性をいかし病院や療育施設にかかわっています。
病院への見学や患者へのインタビュー、病院職員との研究会を通して、病院にどういったアートがふさわしいかを丁寧に議論を重ね、その場にふさわしいと考えられるアートのかたちを提案します。
毎回、学生、大学側、そして病院側、またアートの専門家等によって活動を評価することで、次回への取り組みに反映させていくことも、学生にとって大きな学びであり、病院側にとっても大きな意味をもたらしています。
今回、高橋さんから紹介されたプロジェクトの一つは「足助アサガオのお嫁入り」でした。これは、愛知県の足助病院の患者さんを元気づけてきたアサガオを擬人化し、新潟県の十日町病院にお嫁入りさせるという催しを行うことで、遠く離れた愛知県と新潟県の病院の交流が生まれることを意図し企画されたものでした。
また、2010年の夏に瀬戸内芸術祭の一環として開催した、瀬戸内の大島にあるハンセン病の人たちの療養所、大島青松園でのアートプログラムについても報告されました。1回だけではなく、何度も島に足を運んでもらいたいとの意向から考えられた5回の企画展、また島の人と訪れる人の交流の場ともなったカフェなど、人と人、人と記憶が混じり合うアートの実験が行われました。
アートを持ち込む場が異なれば、一度として同じ取り組みはなく、毎回毎回、真摯に現場に向き合うなかで生まれてくるアートのあり方があるということが、印象的でした。
熱心なディスカッションの場
その後、坂倉さんのコーディネートで参加者のみなさんも交えてディスカッションが行われました。今回は、医療関係者、福祉関係者、大学関係者を中心に約60人の方が参加されましたが、とても熱心な、そして鋭い質問が交わされました。「療養型の病院と急性期の病院では、作品も異なるのか?」「病院や福祉施設等でのアートの効果測定は意味があるのか?」「こういった活動がひろがっていくためには、全国的なムーブメントが必要か?」などなど。高橋さんからは、病院によって作品が異なること、効果について考えることも求められていること、同じような取り組みを行っている人たちとの情報交換も必要であることが提案されました。
たんぽぽの家では、1990年代の中ごろから、病院や福祉施設でのアート活動に注目し、調査を行ってきましたが、各地でさまざまな実験が行われ実践されていくなかで、ケアの現場でのアート活動をささえる仕組み、そしてその評価といったことが、共通の課題としてあがっていることを実感しました。そして、こういったことをじっくりディスカッションしあう情報交換、議論の場が求められていることをあらためて思いました。
第2回以降も、ダンスアーティスト、美術家、福祉施設長、映像作家、そして編集者等、さまざまな講師、参加者とともに、議論を深めていきたいと思います。
東京での連続セッションは、うれしいことにすでに定員に達しましたが、2月には奈良で、そして3月には福岡で開催します。ケアの現場に、そしてコミュニティにはたらきかけるアートの新しい可能性について、参加者のみなさんと一緒に議論していきたいと思います。みなさまのご参加お待ちしています!
※事務局注:以下は奈良と福岡でのセッションのご案内です。
「臨床するアート」奈良セッション
2月19日(土)20日(日)@たんぽぽの家アートセンターHANA(奈良市)
「アウトリーチとインリーチ」、「いのちの現場に向かうアートの可能性」をテーマに2日間にわたって開催します。「アウトリーチはソーシャルマーケティング」「小児科病棟におけるミュージアム活動の取り組み」や「高齢者施設におけるダンスの取り組み」「公共文化施設のアクセシビリティ」など、実際にケアの現場で、そしてコミュニティでどのようにアートの活動が行われているのかを共有し、みなさんとともに課題や可能性をディスカッションします。
⇒詳細はこちらまで
「臨床するアート」福岡セッション
3月5日(土)@九州大学 病院キャンパス 総合研究棟(バイオメディカル・リサーチ・ステーション)セミナー室105号・サイエンスカフェ
詳細は後日当ホームページにて掲載します。
医療や福祉、さらには社会的な課題をかかえる地域コミュニティなどで、アートの力が着目されています。それらは、人と人をつなぐ、人と地域をつなぐ、そして人を癒し、元気づける、芸術文化の可能性をいかす実験的な取り組みです。