春原 喜美江
(社会福祉法人かりがね福祉会 風の工房所属アーティスト エイブルアート・カンパニー登録アーティスト)
70歳のストイック
創作風景
2010年9月 A/Aギャラリー(アーツ千代田3331)での個展にて、姉夫婦とともに
風の工房で絵を描くことを勧められた当初、彼女は「描く」ということに対して苦手意識がありました。風の工房には15年以上通っています。スタッフに勧められ描き始めた絵は、個展や展示会への出品が増えることで、描くことそれ自体が彼女の中で「仕事」として意識するようになり、今では制作に取り組むことへの「責任」を持っておられるような雰囲気が、モチーフに向かう姿勢や普段の会話から感じられます。現在までに約300点の作品を制作されています。
普段は朗らかで気さくな人となりで、他のメンバーやスタッフからは「きみさん」と親しみを込めて呼ばれています。ですが、絵を描くときは線一本一本にこだわりをもち、アート担当の筆者を呼んでは、絵の構図はこれで良いのか、色は合っているか、画材が足りなくなっていると、おっしゃいます。下絵の段階で構図が気に入らなければ、今まで描き上げた線を全て消して書き直すというストイックとも取れる姿勢で制作に臨まれています。昨年、齢70歳を迎えられ、創作する姿勢はますます勢いが乗っています。むしろ、端からお姿を伺っていると今現在がいちばん脂が乗っている人ではないか、とすら思うことがあります。
筆者の個人的な関係を話せば、春原さんの作品を地元のギャラリーで観て感動し、こんな作品を描ける人の制作をお手伝いできる仕事でれば幸せだなと思い、風の工房に興味を持ちました。現在、筆者は風の工房の現場リーダー・アート担当として彼女の創作にいちばん近い場所で働いています。近頃は、体調が不安定な日もあります。ですが、やはり描き上げた後の笑顔はいつも晴れやかです。
(武捨和貴/社会福祉法人かりがね福祉会 風の工房 現場リーダー・アート担当)
春原 喜美江(すのはら きみえ)
1940年生まれ。長野県在住。?1979年より「かりがね学園」(現ライフステージかりがね)に所属。
1988年より「風の工房」所属。
個展
- 2004年
- パステルで描く思い ?春原喜美江展?(宮城県/感覚ミュージアム)
グループ展
- 2001年
- 「ドリーム・パワー:知的障がい者が描いたジョン・レノン」展(埼玉県/ジョン・レノンミュージアム)
- 2007年
- 「ART BOX 4 ~冒険に出かけよう~」展(埼玉県/工房集ギャラリー、東京都/モンベル町田)
林原国際芸術祭「人間を描く」展 (全国巡回) - 2008年
- 「アンダンテ・アルデンテ・アルタ ?はじまるつながる障がい者アート?」展(長野県/長野県信濃美術館)
- 2008~
- 林原国際芸術祭「モナリザを描く」展(全国巡回)
- 2010年
- A/A gallery 第4回企画展 春原 喜美江 展(東京都/A/Aギャラリー)
賞歴
- 2008年
- 林原国際芸術祭「モナリザを描く」展 宮下頼充賞
作品掲載
- 滋賀県社会福祉法人社会事業団企画部「アメニティ美術展」チラシ、看板デザイン
社会福祉法人かりがね福祉会 風の工房
風の工房は「つくりて」たちのアトリエです。そして居場所であり、この場に通うひとりひとりの歴史がある場所【ワークショップ】でもあります。アート活動は1995年より本格的に取り組み、今年で15年目を迎えました。「今、ここ」に至る時間と「これから」の将来が交差する「瞬間」に、この場所では現在進行形の作品が生まれます。迷いなく描かれる線や色。緩やかで緊張感のない表現の時間。心と身体が他人、周囲の状況や環境に影響を受けやすい人が生活する独特な緊張感がある空間。今を生きている人、それぞれの表現がある場所。形になることよりも、個々のワークショップを通じて自分の「やくわり」や「しごと」を持ち、それぞれの人生を「生きる」場所。しかし、ここでは瞬間瞬間に生まれる、言葉にすれば零れ落ちてしまうイメージと振動して何かを伝えようとする身体が重なり合い、閃く「何か」があります。その何か形にならない「かたち」を表現する場所、それが風の工房[Workshop of the WINDS]です。
エイブルアート・カンパニーのページから、春原さんの作品がご覧になれます。