まちの情景をかえる――プライベート美術館


「難波神社での展示風景 2009年12月」


「URBAN RESEARCH DOORSでの展示風景 2009年12月」


「45Rでの展示風景 2009年12月」


「Motherhouseでの展示風景 2009年12月」

障害のある人のアート作品の魅力を発見して楽しんでほしい。美術館やギャラリーだけではなく、まちのなかの、人々の生活のなかにあって、もっと多様な楽しみをたくさんの人に伝えたい……。そんな願いからプライベート美術館はスタートしました。これまで、関西を中心に商店街やまちのショップ、そして企業の社屋や営業所など、さまざまな生活空間を彩ってきました。
プライベート美術館には、はじめに「お見合い」というプロセスがあります。たくさんの多様な作品と出会ってもらい、ショップの店長さんが、企業で働く新人スタッフが、自分たちがふだん働く空間にどんな作品があったらお客さんが喜んでくれるだろうか、スタッフはもっと楽しく働けるだろうか、と想像しながら、作品を選ぶものです。直感で選ぶ人もいれば、何時間も悩んで決める人も。
そうして作品が飾られたとき、いつもの空間が少し違って見えたり、作品を通して人と人とのあいだにおしゃべりが生まれたり……。障害のある人のアート作品を通して、生活空間やまちに温かなコミュニケーションがうまれてほしい。そんな想いで開催しています。

そして、この冬も昨年に引き続き、大阪・南船場でプライベート美術館がオープンします。14作家の約50点の作品と、プレゼントにもぴったりなグッズなどが、アパレルショップやカフェ、本屋さんや雑貨屋さん、神社などに登場します。お気にいりの作品をみつけに、ぜひおでかけください。

  • プライベート美術館@大阪南・船場
  • 2010 年12 月1 日(水)~ 12 月25 日(土)
  • 主催:財団法人たんぽぽの家  
  • 特別協力:難波神社、Re:S  
  • 協力:エイブル・アート・ジャパン、船場アートカフェ、特定非営利活動法人まる
  • 企画・構成:エイブルアート・カンパニー
  • アートディレクション:DAISUKE SUZUKI DESIGN
  • 詳細はこちらまで


障害者アートと「贈りもの文化」

川上文雄(奈良教育大学教育学部 教授)

私のよく知る木村昭江さんのイラストが靴下の図柄に採用された。パンフレットの写真のかわいらしいこと。必ず売れると確信していたら、そのとおりになった。商品開発、マーケティング、販売の仕事もしっかりしていたに違いない。子ども用のサイズを作れば、「孫への贈りものに」などと、大いに人気がでるかもしれない。障害者アートの商品は贈りものに最適であると思う。私自身、勤務する大学で定年退職を迎える教員に、書からとられた文字をデザイン化した手ぬぐいを贈っている。障害者アートの人気が高まり売り上げが伸びれば、まことに喜ばしい。しかし、私はそれ以上のことを望んでいる。
望むのは次のことだ。障害者アートによって、アートがこれまでの狭い枠から自由になり、新しい発見、そして楽しい出来事と出会いに満ちたアートになっていくこと。商品が贈りものとして使われるだけでなく、障害者アートが「贈りもの文化」をつくりだす出発点になること。つまり、障害者アートへの関わりが、いろいろな「贈る行為」を楽しむ活動になること。ちなみに、このような贈りもの文化は、商品開発、マーケティング、販売における発想の種または土壌にもなるのではないだろうか。

贈りもの文化を考える手がかりが「プライベート美術館」にある。そこでは、一人ひとりが自分で作品を選び、展示し、見に来る人に楽しんでもらう。これは、ものを買ってだれかにあげるという意味での贈りものではない。しかし、そこには確かに「贈る」行為がある。そして、その行為がもたらす充実感は、障害者アートからの贈りものである。
2009年の11月末、神戸での障害者アート関連フォーラムの終了後、エイブル・アート・カンパニーのスタッフが、「プライベート美術館@南船場」に、私ともう一人の参加者を誘ってくれた。そのスタッフのガイドで、大阪・南船場をめぐった。私には初めての南船場の夕暮れ時、難波神社の塀にはカンパニー作家の大きな絵馬が並んでいた。出会う人、そして風景、それらはガイドしてくれた人からの贈りものである。そして、この界隈を普段とは異なる特別な場所に変えてくれたことは、障害者アートからの贈りものである。参加の店のひとつでハンカチを四点、贈りもの用に買った。そのなかに、よく知る作家の作品をデザインしたものがあった。障害者アートからの贈りものを受け取り、だれかに贈る。そのつながりの結び目に私がいる。
私は授業の一環として障害者アートの展覧会を市内のギャラリーでおこなってきた。「プライベート美術館」と同様に、学生たちそれぞれが、自分にとってとくに大切な1点を選ぶ。そして、それに感想を添えて展示するのである。出展の依頼文を書くこともある。事情があって作品を借りられない場合は、アーティストに会いにいき、作品を見せてもらったこともある。作品がとりもつ縁で、人と人(人と場所)のつながりができていく。
障害者アートに関わり続けていくなかで、時間を費やすことが無理なく自然にできるようになっていった。展覧会のために作品を借りるとき、たいていは郵便やメールで済ましてしまうけれど、そうしないで、直接受け取りにアーティストと家族に会いにいくこともある。私の住む奈良市からかなり離れた京都府の福知山市にも行く。特急を避け、ほぼ各駅停車の列車にのり、20年間読まずにいた文庫本を開きながら、そして車窓からの景色をながめながら。(この本、もっと早く読めばよかった!)福知山は私を歓待してくれた大槻修平さんとそのご両親のいる特別なまちになった。この1日がかりの楽しく有意義な旅は、障害者アートからの贈りものである。展覧会の時間と場所だけがアートではない。
「プライベート美術館」がさらに活発になることを願っている。贈りものを心から楽しむことは、贈った人への贈りものである。贈られたものに触発されて新たな試みをめざすことは、贈りものである。私は大学教員であるので、教育現場での試みを模索しながら「贈りもの文化」を生きていきたい。「(損なわれていない)人間同士のつながりはそれ自体一つの贈り物である」(アドルノ『ミニマ・モラリア』 三光長治訳49頁)。

(ABLE ART DESIGN BOOK 2010より転載)

まちの情景をかえる――プライベート美術館
まちの情景をかえる――プライベート美術館

障害のある人のアート作品の魅力を発見して楽しんでほしい。美術館やギャラリーだけではなく、まちのなかの、人々の生活のなかにあって、もっと多様な楽しみをたくさんの人に伝えたい……。そんな願いからプライベート美術館はスタートしました。これまで、関西を中心に商店街やまちのショップ、そして企業の社屋や営業所など、さまざまな生活空間を彩ってきました。