大倉 史子(アーティスト)
大倉さんは、サクランボや洋服などその時々のお気に入りを画面にびっしりと描きこんでいく。そこに並ぶモチーフのチョイスからは、「いかにも若い女の子」な日常が浮かび上がる。
赤やピンクを中心に明るい色彩で描かれるとっても可愛らしいモノたちの中に、時々顔をだすスカルなどのハードな印象の黒。この甘辛のミックス感覚にも、彼女のセンスは光っている。
大倉さんの作品には、ただ可愛いだけではない要素が他にもある。
たとえば、多くの画面に残されたいびつな余白による、余韻。執拗な繰り返しから伝わる、主張するエネルギーの強さなどである。
そんな、危ういバランスに共感する人が多いからなのか、大倉さんの作品は、昨年からファッションデザイナーの岡本順さんによりテキスタルとして展開され、女の子たちの人気を集めている。
大倉 史子(おおくら ふみこ)
1984年生まれ。埼玉県在住。
2003年より「川口太陽の家・工房集」に所属。
創作活動がもともと好きで、高校卒業後、創作が継続できる工房を自ら選び、現在にいたる。工房では、あちこちに移動しながら、時には外で描いている。所属して2年ほどは、人物や人名を描きつづけていたが、3年目から〈サクランボ〉を描くようになり、現在は〈アメリカンチェリー〉ばかりを描いている。時折、日常生活のなかで見聞したモチーフや、好きなアニメーションのモチーフが表現される。
よろこびのアメリカンチェリー
美術家・工房集アートディレクター 中津川 浩章
大倉史子の工房集で制作している時間は主にアメリカンチェリーなどの果物や食べ物を繰り返し描き、画面をびっしりと埋めていくことに費やされていく。その作品は何百枚と工房集に保管されていて人に見られるのを待っています。
画面の中だけの反復ではなく、画面そのものも反復していくスケールの大きさとオブセッションがそこには存在しています。同じ作業を反復することは、時間の内側に入っていくことができたり、反復することで落ち着いたりするためか、とくに障害をもった仲間に多い表現スタイルです。
しかし、大倉史子の画面をよく見てみると、一枚一枚空間が微妙に異なっていて、書き残しの余白がとても美しいのです。画面の中でアメリカンチェリーと余白が、ほのぼのしていながらぴったりとはまり、個性的なレイアウトとして成立しています。一見、アバウトなように見える画面構成は、実は緻密に計算されてできあがったのではないかと感じてしまうほどです。
また、アメリカンチェリーは同じように反復されているように見えますが、ヘタが一本のものと二本のものがあったり、ひとつひとつ色の重ねが微妙に異なっていたり、また突然文字が挿入されていたりと、実は単なる反復ではなく、変化に富んだ世界を作り出しています。
だからこそ大倉史子の画面はおおらかで、拡がりを持ち、絵画として魅力的なのでしょう。
さらに家に帰ると彼女は昼間お世話になっている大好きな人たちの顔や名前、その日のファッションまで、これも何度も繰り返し描き続けます。
その数もまた膨大なものす。大好きなその人を想って描くこと、その想いの深さに気がつくと、しばし愕然とします。アメリカンチェリーや食べ物そして大好きな人達の姿やファッション、それら彼女の興味のあるものすべてを描き出す時、ひとりの人間のもつ広くて深い、感情を伴った世界が現前します。
そして、それらを表現していく時、彼女は生きる喜びを感じていることでしょう、その感情が画面からはっきりと伝わってきます。そんな生きる喜びを、彼女の作品を見ることで、多くの人たちと共有できたらどんなにか素晴らしいことでしょう。
(工房集コレクション 大倉 史子 作品集 前書きより)
大倉史子作品集(¥1,000)のご購入・お問い合わせは下記まで。
「工房集」
住所:〒333-0831 埼玉県川口市木曽呂1445
電話:048-290-7355
FAX:048-290-7356
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大倉 史子(アーティスト)