光島 貴之(アーティスト)

光島 貴之(アーティスト)

描き出される新たな世界

響きあう線 Ⅰ
響きあう線 Ⅰ

隙間のある音
隙間のある音

七歳の記憶
七歳の記憶

光島さんは、いつも、私たちを「世界」へと招き入れる。 そっと、あるいは、ぐいっと、新たな世界へと。

彼は主に製図用のラインテープとカッティングシートを用いて平面作品を制作する。
線と面で構成された画面はシンプルかつ大胆だ。
アクリル板に、スケッチブックに、ときに窓に、壁に、線は伸び、形は踊る。

モチーフは、彼が日々の生活で出会っているであろうもの。たとえば、「ほっぺた」、「缶コーヒーを飲む」、「むかしの木・いまの木」。

そして、音。
「響きあう線」、「隙間のある音」、「つまびく」。
それから、記憶。
「7歳の記憶」、「記憶の断面に触る」、「窓の記憶」。
「わがままな記憶を形にしてさかのぼる」なんていうものもあった。

そんな魅力的なタイトルのもと、彼の生活が、味わっている世界がそこに表される。
たとえば、「指先で街を歩く──京都からギャラリイK(東京・銀座)まで」には、彼が足で、指で、耳で、味わった街が息づいている。
私はエスカレーターや階段や交差点を目にし、驚き、頷く。
それらは、私が知っているそれらと同じであり、同時に、少し異なってもいる。
それにはむろん、彼が全盲であるということも大きく関与しているだろう。
世界を知覚するその方法が、もしかしたら、晴眼者と少し異なるのかもしれないとも思う。
けれども、同じだとも思う。異なる身体を持っているとしても、この世界に生きている、という意味では、彼も私も同じである、と。
私たちはこの世界でいろいろなことに出会い、惹かれ、ときに惑わされ、迷い、そうやって生きていく。
ぐるぐると画面いっぱいにひろがる渦巻きや幾重にも重ねられた線は、その記録のように思える。

光島さんは、公開制作も多く行っている。
全盲の彼は、作品の大きさによっては全体像が掴みづらいと言う。
そのため、サポーターと、観客と、ときに言葉で、ときに絵で、対話し、描き進めていく。
対話は、いまここに、新たな世界を作り出す。
それは、彼だけの世界でもなく、私だけの世界でもない。
それらが交差したところに現れる、新たな世界なのだと思う。

(井尻貴子/財団法人たんぽぽの家)

光島 貴之(みつしま たかゆき)
光島 貴之1954年生まれ。京都府在住。
美術家・鍼灸師。 10歳の頃に失明する。80年大谷大学哲学科卒業。92年から粘土による造形活動を始め、95年よりレトラライン(製図用テープ)とカッティングシートを用いる独自のスタイルで「触る絵画」の制作を始める。以後、埼玉県立美術館やサンディエゴ美術館など国内外での展覧会・個展、ワークショップ講師など多数行っている。2010年7月「視力0.01」展(大東市立生涯学習センターアクロス)出展。10月からは「いま、バリアとはなにか」アートプロジェクト成果展示(せんだいメディアテーク)に参加予定。
ウェブサイト「光島ギャラリー 触覚で世界を描きだす
ブログ「窓を少し開けて」(近況は、ブログでご確認ください)


「光島ギャラリー 触覚で世界を描き出す」より

10歳までの風景は、自分を中心に半径1メートルだった。
それ以後、太陽の光はまぶしそうな暖かさだけになった。
インバーターではない蛍光灯が付くときは、パチパチという音がする。
朝は、匂いと賑わいでやってくる。
携帯でしゃべりながら街を歩く女たち、男たち。
彼らは、僕にとって透明人間ではなくなる。

触ることでもののかたちが分かる。
聞くことで、街の広がりが分かる。

視線によって何かを表現することはできないが、
触ることで人の気持ちを楽にしたり、体を軽くすることができる。

触覚と音、対物知覚(天井の低いところに入ると圧迫感を感じたりする感覚)による
風景を持つようになって、もう40年以上になる。
触覚による時空間認識のおもしろさを少しでも味わってほしい。

(光島貴之)


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